2019年 学会参加・留学だより

 

Stony Brook University 留学記 片野 敬仁

私は2018年4月からアメリカ合衆国・Stony Brook Universityに留学しています。私の留学先であるStony Brook Universityは、ニューヨーク州立大学の一つでニューヨーク州のロングアイランドのストーニーブルックに位置します。The State University of New York at Stony Brook (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校)とも記されますが、Stony Brook Universityの方が通じます。医学の分野ではPaul LauterburがStony Brook University在籍時のMRIの開発に関する業績でノーベル賞を受賞しており、そのMRIが学内に保管されているそうです。Stony Brook Universityには世界中から多数の留学生が集まっていますが、アジアでは中国・韓国・インドからが多くを占め、私が知る限り日本人は数えるほどしかおらず、普段は日本人とすれ違うことは皆無です。気候は日本と同じように四季がありますが、夏は短く、冬は長いです。夏は気温が高くても湿度をあまり感じず、日陰にはいれば涼しいので過ごしやすいです。冬は、今年は雪が少なかったようですが、それでも1日の最高気温は0℃を下回り、外を歩くと寒いというより痛いという感じでした。
 私の所属するYang研究室では、転写因子であるKLF4・KLF5の機能に関する研究を行っています。私のテーマは腸管幹細胞におけるKLFファミリーの機能の解明ですが、当研究室ではLGR5やBMI1の幹細胞のマーカーを蛍光標識し追跡可能なマウスモデルを持ち、細胞系譜解析を用いて正常状態・粘膜傷害時の腸管幹細胞の挙動を見ることができます。研究室は他の研究グループと相乗りで名古屋市立大学消化器・代謝内科学の研究室の環境とよく似ています。留学して1年が過ぎましたが相変わらず英語でのコミュニケーションにとまどい、いろいろと自分で用意しなくてはならないので苦労することも多いですが、苦労も含めて刺激的な日々を過ごしています。
 研究のことはほどほどに私が住んでいるところについて紹介します。ニューヨークと聞くとマンハッタンの摩天楼を想像する方も多いと思いますが、ストーニーブルックはマンハッタンから東に車で2時間くらいのところで、あたりには高いビルはなく緑が多く自然豊かな場所です。私の住むポートジェファーソンにはフェリーポートがあり、1時間くらいでコネチカット州側にわたることができます。夏になると、普通の道で自宅からボートを車で牽引しているところにすれ違い、アメリカらしいと感じる光景です。ビーチも近く、緑豊かな公園や農場、ワイナリーもたくさんあり、季節折々に自然の変化を楽しむことができます。先に記した通り、車を少し走らせればマンハッタンに行くことができ、週末に気軽に大都会の雰囲気を楽しめるのも魅力です。メトロポリタン美術館や自然史博物館、ブロードウェイミュージカルなど、世界有数の美術・芸術を身近に感じることができます。
 留学前には、夜道を歩けば銃を向けられるくらいに思っていましたが、そんなことはなく、ストーニーブルック付近は治安がよく、人々は基本的には親切です。とくに印象的なのは、大人が子供らに向けるまなざしがみな温かく、おおらかに接しているところです。小学校でのイベントに参加すると大人も子供もみな生き生きとして、何をするにも大盛り上がりで、人生を楽しむということについて考えさせられました。もちろん良いことばかりではなく、事務手続きが人によって言うことが違ったり、「確認してあとで連絡する」と言われた場合には基本的には連絡は来ないなど、日本では考えられない対応に苦労することもたくさんありますが、そういったことを体験することで、外国人にひるまない心を手に入れられたのではないかと思います。留学することでしか得られない経験、人生観にも影響を与えるほどの体験があり、もしも少しでも海外留学に興味を持つ方がいれば、一歩踏み出すことを強くお勧めします。
 最後になりましたが、海外留学という貴重な経験を得るにあたり、快く送り出していただきました片岡教授はじめ、消化器・代謝内科学教室の皆様に厚く御礼申し上げます。

写真1 マンハッタンの摩天楼

 

写真2 ロックフェラーセンターのクリスマスツリー

 

アリゾナ大学留学記 加藤晃久

留学開始からまだ数カ月足らずですが,私の留学するアリゾナ大学について記載します.アリゾナ大学医学部は米国内有数の研究機関の一つとされ,州都フェニックスに位置します.フェニックスは砂漠の真ん中に計画的に形成された都市で,都市圏の人口は全米11位とされる大都市ですが,歴史は浅くここ数十年で急成長を遂げているようです.そのためか道路も広く,街中はきれいで清潔な印象です.また中南米やヨーロッパ,アジアなど世界中の人々が集まっているため,様々な人種の方々と交流ができ多種の文化に触れることが可能であり大変貴重な経験ができます.留学する前の私の中でのアリゾナ州のイメージは「暑すぎる」と「砂漠」でしたが,結果的には非常に住みやすく感じています.気候は一年を通し温暖で,真夏は45℃を超えることもありますが,日本と違い湿気が全くないので数字ほどの暑苦しい感覚はなく,またほぼ毎日晴れなので,すがすがしい気持ちで生活することができます.しかも驚くことに,フェニックス市内のほぼ全ての一軒家やアパートは専用プールを所有しており,私のアパートの部屋の前にもプールがあり,私の子供たちは毎日のようにプールで遊んでいるため非常に助かっています.
 さて私は留学前に,膵癌に関する分子生物学的な基礎研究や,臨床検体を用いた膵癌化学療法におけるバイオマーカーの解析等を中心に研究を行っていたため,膵癌に関わる研究を継続したいと考えていました.私の所属する研究室の責任者であるSushovan Guha先生は臨床医でありながら,膵癌の基礎研究においても数々の賞や助成金を受賞されており,近年では,膵癌に関するtranslational researchを盛んに行われています.まさに私の目指す姿であり,彼の下で研究ができる機会を得られてとても幸運に思います.さらにアメリカでの研究の非常に魅力的な点として,他施設とのコラボレーションが垣根なく容易に可能であることが挙げられ,Guha先生のコラボレーション先の一つにアリゾナ大学の隣に位置するTranslational Genomics Research Institute(TGen)という施設にあるDaniel D. Von Hoff先生の教室があります.彼は膵癌の化学療法において世界中で最も著名な方と言っても過言ではなく,1997年に進行膵癌に対してのゲムシタビン単独療法の有用性を証明する第三相試験を主導され,膵癌に対するゲムシタビン単独療法を標準治療として確立されただけでなく,2013年には現在の第一選択薬であるゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の切除不能膵癌に対する有用性を証明したMPACT試験を報告されました.このような世界的にご高名な方々とのコラボレーションが容易に可能な環境はとても贅沢であり,日本では困難なことかもしれません.私の研究内容に関しては,膵癌の転移や浸潤に関わる分子群や分子機構の解析が私の主なプロジェクトであり,基本的には名古屋市立大学で研究していたような癌細胞を用いた実験の日々を送っています.当グループでの基礎実験と並行して,前述のVon Hoff先生のグループとコラボレーションの形で臨床検体を用いた解析も進めており,基礎データと臨床データを照らし合わせて解析するtranslational researchを目的としています.勿論良い点ばかりでなく,英語をはじめ様々な点で苦労は付き物となっています.留学後に判明しましたが,私の所属するグループがまだまだセットアップの状態でしたので,必要な一般物品や実験に用いる消耗品の選別と購入,器具のオートクレーブやゴミ処理など研究以外の仕事もすべて自分達で行うため,違った意味でも苦労が多いですが,名古屋市立大学にいた頃には助手の伊藤さんにして頂いていた有難みを痛感し,当たり前と思うことの危うさについてとても良い人生勉強となっています.
 研究以外にも魅力的な点の一つに,車で移動できる距離に多くの観光地・保養地が存在することが挙げられます.近年パワースポットとしても有名な“セドナ”をはじめ,かの有名な“グランドキャニオン国立公園”や多数の映画撮影の舞台となっている“モニュメントバレー”などアメリカの壮大な自然を感じることができます.またカリフォルニアやラスベガスにも車で行くことができるため,これからの留学生活の中で,時間を見つけて家族と上記のような観光地へと足を運ぶのもアメリカ留学の一つの醍醐味ではないかと感じています.子供たちにとっても,自然の多いアリゾナ州での生活や英語の習得などメリットは数え切れないほどあるのではないかと感じています.
 最後に,忙しい臨床現場を離れ,私のアメリカでの研究留学をお許し下さった肝膵内科の先生方をはじめ,片岡教授や消化器代謝内科の医局の先生方には,感謝してもしきれません.今後の当医局の,特に膵臓分野での発展に微力ながらも貢献できるよう,研究成果や研究テーマ,人脈,経験などをアメリカの地で得て,還元できればと考えています.

写真は,私の所属する研究施設と,セドナの風景です.

 

International Photodynamic Association World Congress (IPA)参加報告 西江裕忠

(International Photodynamic Association World Congress:IPA)は隔年で世界各国の主要都市で開催される、光線力学的治療(Photodynamic Therapy; PDT)に関わる学会です。我々消化器・代謝内科では、臨床面においては、医師主導臨床試験の段階から東海地では先駆けて消化器疾患に光線力学的治療導入し、現在も紹介患者さん含め治療を継続しております。また、研究面においても他大学、学部との連携を行いながら次世代のPDT治療の探索をしております。日頃のPDT研究の結果をこの度、IPAで口演発表させて頂く機会を得ましたので、この場でその体験を報告させて頂きます。
 今年のIPAは2019年6月28日から7月4日の期間、米国ボストンにて開催されました。今回の学会は口演発表をする私と、同じく口演発表をされる片岡教授の二人で参加致しました(演題登録、採択はもう少し多かったのですが諸事情により二人旅となりました)。ボストンまでの移動は中部国際空港から成田国際空港への国内線移動、その後ボストン、ロナルド・レーガン空港までの国際線移動でした。出発日の日本の天候は雨で(2日前に令和初の台風が日本に接近!)、手荷検査を終え搭乗を今かと待つ私達に「雨のため成田までの国内線が中部に引き返す可能性があります」とのアナウンスが流れた際は「渡米できず」の5文字が脳裏をよぎり、二人して翌日スゴスゴ病院へ出勤することも覚悟しました(恐らく成田からの国際線は飛んでしまうので)。しかし天候は持ち直してくれて、何とか無事成田到着し、13時間の長いフライトでしたが快適な空の旅となりました。上述のように、日本では梅雨時の連日雨や蒸し暑い日々が続いておりましたが、ボストンでは滞在期間を通じて晴天にも恵まれ、非常にさわやかで過ごしやすい滞在となりました(ボストン滞在経験のある先生に伺うと、1年で一番いい時期だったようです)。
 さて、本題のIPAですが、国際学会であることもあり、参加されている研究者は実に国際色豊かで、会場では英語はもちろんのこと、様々な言語が飛び交っておりました。PDTという1つのテーマの下、世界各国から多くの研究者が集まり、お互いに新たな成果を報告してゆくという、日本の学会にはないエネルギッシュな雰囲気を感じました。今回の私の発表は7月3日(第7日目)午前の口演発表でした。発表時間は質疑応答を合わせ15分と長めの発表でしたが、初めての英語での口演で無我夢中、練習した成果を絞り出す形で行いました(写真1)。私達の教室で継続してきました、糖を結合させた光感受性物質を用いたPDTに関して発表を行い、発表後の質疑応答では2名からの質問を頂きました。私なりに質問されたことに対して答えたつもりですが、どうやらあまり噛み合っていなかったようです。英語力のなさを痛感しましたが、日々の英語の鍛錬の重要性を感じ、良いモチベーションになったと思います。片岡教授はさすがの英語力で、当院で今まで施行したPDTの実臨床の結果を発表されました(写真2)。消化器のPDTは、主に癌治療として用いられますが、現在の主流であります免疫に関連した演題がPDTでの数多く発表されていたことは今後の研究にもつながる貴重な経験ができたと感じました。
 さて、学会参加の楽しみの一つでもあります、学会開催都市の観光についても少しお伝え致します。ボストンは、アメリカで最も歴史のある古い町のひとつで、街並みもレンガ造りの建物が多く見られ、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など有名大学がある文教都市で、日本で例えれば京都のような古き良き都市、といったところでしょうか。早朝のチャールズ川のほとりはジョギングをする人も多く、非常に風光明媚な美しい都市でした(写真3)。食事に関しては、「アメリカと言えばステーキ!?」ですが、ボストンはアメリカ東海岸の都市で大西洋に面しているためシーフードも有名です。出発前にお勧めされました「アトランティック・フィッシュ」にて念願のロブスター1尾まるごと堪能できました(写真4)。初めて食べましたが、海老というよりはツメや身を専用の器具を使用してほじり出す形式はカニに似ており、肉厚の身は専用の溶かしバターに付けて食べると非常に濃厚で美味しいものでした(スモールサイズを注文しましたが、やはりアメリカンサイズであり付け合わせのジャガイモ、トウモロコシ1本は食べきれませんでした)。このほか、ハーバード大学見学、街中散策、アメリカ独立記念日チャリティーコンサート(写真5)も体験しましたが、あまり書き過ぎると遊びに行っている、と思われかねないためこのくらいにしておきます。
 海外学会参加・発表をさせて頂くのは今回で3回目となりますが、国内学会では味わえない緊張感が得られ、毎回新たな発見があり、異国の文化に触れられ大いに刺激されることなど、多くの学びがあると思います。一つ海外学会発表を行うと、次の目標に向かい準備をして行こうと感じ、日常業務の励みにもなると思います。
 最後に、今回の海外学会参加をさせて頂きました片岡教授をはじめ医局の皆さま、不在中に臨床業務の対応をして頂きました消化管グループの方々には深く感謝致します、ありがとうございました。また、行かせて下さい!

写真1 

写真2 

写真3 

写真4  

写真5