胆膵グループ

 胆膵グループでは胆嚢、胆管、膵臓といった臓器を中心に診療、研究を行っています。胆嚢、胆管、膵臓は通常内視鏡ではアプローチが困難であり、狭い領域に、これらの臓器が密接に関連して存在していることから、診断・治療が難しい分野とされています。よって、この領域の診断・治療には十分な知識、技術、経験が必要となります。最近ではERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)関連手技の発達により、多くの治療が内視鏡的に可能になってきました。当院では、胆管の観察が直接可能である最新の経口胆道鏡を積極的に使用しており、最先端の診断・治療を行っています。また、EUS(超音波内視鏡)分野の発展は目覚ましく、以前は組織採取が不可能であった胆嚢、胆管、膵臓、腹腔内リンパ節、後腹膜、縦隔からの組織診断を病理診断部と連携して行っています。加えて、従来は外科的な処置でしか治療できなかった胆道や膵仮性嚢胞のドレナージも侵襲の少ない内視鏡下の治療が可能となってきております。さらに胃、胆道、膵臓の手術による術後再建腸管は、従来内視鏡治療が困難でしたが、小腸内視鏡(バルーン内視鏡)の発展・応用により、身体への負担少なく治療を完結できる時代になってきています。当院でも積極的に行っていますが、一方で内視鏡治療が困難な例もあるため、胆膵外科とも連携し、患者様に最も適した治療を提供できますよう日々努めています。この分野での診断・治療の発展は日進月歩であり、私たちは大学病院として、最先端の治療を行うべく、日々の診療、研究にあたっております。

 

臨床について

①悪性疾患(膵癌、胆管癌、胆嚢癌、他臓器からの臓器・リンパ節転移)

 各種画像検査、ERCP・経口胆道鏡を用いた胆管進展度診断、やEUSを用いた組織検査(EUS-FNA)による診断を行い、外科手術、化学療法、緩和治療を選択するための指針決定を行っています。また、この領域の悪性疾患は容易に閉塞性黄疸を来すため、胆道ドレナージが必要となります。ERCPあるいはPTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)を用いた胆管ステント留置やEUSを用いた胆管ドレナージ(EUS-BD)を積極的に行っています。また、膵癌、胃癌などにより消化管閉塞を来した場合には、内視鏡的に胃・十二指腸ステントを挿入しています。当院は、2004年より、全国に先駆けてこの内視鏡的胃・十二指腸ステント留置治療を行っており、多くの治療経験を有しております。

②胆道結石症、膵石症

 胆道結石症に対しては、基本的にはERCPを用いた内視鏡的治療を行っております。総胆管結石に対しては標準治療に準じて、EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)、EP(L)BD(内視鏡的バルーン拡張術)を用いた内視鏡治療を行っております。巨大胆管結石に対してはESWL(体外衝撃波砕石療法)や前述の経口胆道鏡下のレーザ、EHL(電気水圧衝撃波)を併用した治療を行っております。胆石症に合併した胆嚢炎には内視鏡的、経皮的なドレナージを施行しております。膵石症は慢性膵炎に併発して起こり、膵液流出障害から疼痛や化膿性膵管炎を来たす疾患です。無症状の際には治療の必要はないと言われておりますが、有症状で、それが主膵管内に存在する場合は治療適応になります。当院は歴史的に多くの膵石症例の治療経験を有し、全国の施設よりご紹介いただいております。ESWLや内視鏡処置を併用することにより、低侵襲な治療を行っております。しかしながら、内科的治療では困難な場合もありますため、膵臓外科とも積極的に連携を取りながら、最善の治療を提供できるように心がけております。

③術後再建腸管に対するバルーン内視鏡治療

 バルーン内視鏡を用いた内視鏡診断・治療は消化器の内視鏡検査・治療のなかでも、高い技術が要求される検査・治療です。我々も胃、胆膵術後における胆管結石や術後の吻合部狭窄に対しては、バルーン内視鏡を積極的に使用し、胆管結石治療やステント留置、吻合部狭窄に対するバルーン拡張など行っております。

④最先端の急性膵炎治療

 急性膵炎は癌などの悪性疾患ではないにも関わらず、重症化すると生命に関わる疾患です。病態の解明に伴い、その死亡率は年々低下傾向にあります。しかしながら、その治療は病態を熟知した医師が行う必要があり、特に初期治療が重要になります。当院ではその最先端治療のシステム化を導入しており、ICU(集中治療室)とも連携した集学的治療を提供しております。具体的には早期の膵虚血を予測すると言われているPerfusion CTを導入し、全国の基幹病院との連携を深めています。また、急性膵炎の重症化に関わる遺伝的な要因の解析も進めております。

 

研究について

①自己免疫性膵炎

 自己免疫性膵炎という概念が一般的になる以前から多数の自己免疫性膵炎の症例を経験しており、自己免疫性膵炎の膵外病変、診断方法、長期予後に関しても多くの研究を行っています(清水ら:Scand J Gastroenterol 2015、宮部ら:JG 2015、内藤ら:Pancreas 2013、宮部ら:JG 2014、内藤ら:Pancreas 2013、奥村ら:Pathol Int 2012、内藤ら:Scand J Gastroenterol 2012、内藤ら:Pancreas 2010、内藤ら:Pancreas 2010、内藤ら:Intern Med 2009)。また、自己免疫性膵炎臨床診断基準2011の作成委員会にも当グループから参加し、診断基準作成にも携わっております。

②IgG4関連硬化性胆管炎

 現在のIgG4関連硬化性胆管炎という疾患概念がなかった時代にAtypical PSCと提唱を最初に行ったのが、当教室であります。IgG4関連硬化性胆管炎が今日においては様々な胆管像を呈することが分かってきていますが、この胆管像の分類は中沢貴宏先生が提唱され、中沢分類と呼称されて、用いられております(中沢ら:GIE 2007)。IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2012、2019(神澤、中沢、内藤ら:JHBPS 2019)の作成員会にも当教室から参加しており、胆膵グループからの多くの研究成果が診断基準に取り入れられ、多くの成果を報告しております(中沢、内藤ら:SLD 2016、清水ら:Intern Med 2016、内藤ら:Pancreatology 2016、中沢ら:WJG 2015、内藤ら:JGH 2015、山下ら:Pancreatology 2014、中沢ら:WJG 2014、中沢ら:WJG 2013、大原ら:JGH 2013、中沢ら:Clin Endosc 2012、内藤ら:Intern Med 2012、中沢ら:JG 2012、内藤ら:JG 2011、中沢ら:JHBPS 2011、中沢ら:JOP 2010、内藤ら:Cases J 2009、内藤ら:JG 2009、中沢ら:Hepatogastroenterology 2009)。また鑑別を有する代表的疾患のPSCの診断基準(伊佐山、中沢、内藤ら:JG 2018)にも当グループが参加しております。

③膵石

 本邦において、膵石に対して初めてESWL治療を行ったのが当グループの大原弘隆先生(現名古屋市立大学総合内科)です。膵石の疾患頻度はそう多くはありませんが、当院には多くの膵石症例が紹介されてくるため、膵石に対する多数例の内視鏡的治療、ESWL治療の経験があります。膵石に対する治療方法として、ESWL施行時の膵管ステント併用の有用性についても報告しております(近藤ら:DLD 2014)。また、膵石に合併することの多い化膿性膵管炎という稀な疾患概念の臨床像についても報告しています(近藤ら:JGH 2016)。

④胆管ステント

 切除不能悪性胆道狭窄による閉塞性黄疸に対して、以前より、積極的に胆管金属ステント(SEMS)の留置を行っております。中下部胆管SEMS留置後の偶発症である急性膵炎、急性胆嚢炎の危険因子や(清水ら:JGH 2013)、一期的、二期的留置の比較について(清水ら:JHBPS 2014)報告を行い、現在、一期的、二期的留置の比較について多施設前向き試験を施行中であります。また肝門部SEMS留置に関しても、ドレナージ範囲(内藤ら:JGH 2009)、SEMS留置形態(内藤ら:DDS 2012)、SEMS径(内藤ら:JHBPS 2015)についても検討を行っております。また胆管ステントから応用したステントの力学的特性について、Traction Forceという概念を提唱し、報告を行っております(堀ら: DEN 2017、堀ら:Endoscopy 2016)。

⑤胃・十二指腸ステント

 悪性胃・十二指腸狭窄による消化管閉塞に対して、以前より、積極的に金属ステント(SEMS)の留置を行っています。胃・十二指腸SEMSに対する化学療法の影響(宮部ら:DEN 2015)、胃・十二指腸SEMS留置後の経口摂取不良の因子を、カバー付きSEMSとカバー無しSEMSの比較を行うことによる解析(堀ら:Surg Endosc 2017、堀ら:GIE 2017、堀ら:JGH 2015)や、化学療法を行えない方への治療の有効性と安全性(堀ら:Support Care Cancer 2018)を報告しています。また、胆管、胃十二指腸ステントを両方留置した際の、カバー付きステントの胆管ステントへの有用性(胆管再狭窄[RBO]が有意に少ないこと)も報告しています(堀ら:JGH 2018)。また現在は、逸脱しないカバー付き胃・十二指腸SEMSの留置方の開発を進めており、動物実験でその有用性の確認を終え(堀ら:Surg Endosc 2019)、実臨床に応用しています。

⑥FISH(fluorescence in situ hybridization)

 白血病やリンパ腫では以前より利用されているFISH法を用いて膵IPMNのパラフィン標本を見直し、IPMN癌化に特徴的な染色体/遺伝子変異を見出しました(宮部ら:AJSP 2015)。現在、内視鏡検体にそれらを応用する試みを行っております。胆管生検を用いた際の7番染色体異常が胆管癌における予後予測因子となること(加藤ら:DDS 2018)や鑑別の難しいIgG4関連硬化性胆管炎との鑑別にFISH法が有用であること(加藤ら:JHBPS 2018)を報告しています。

⑦消化器癌の基礎的研究

 多様化する消化器癌の治療戦略のなかで、発癌・増殖制御因子、予後・治療効果を予測する因子(バイオマーカー)の同定は癌研究において重要な課題です。我々は近年大学院生を中心にこれらに着手し、臨床検体を用いた膵癌SNP解析(堀ら:PLOS ONE 2015)、癌細胞株および動物モデルを用いた膵発癌の化学予防(加藤ら:Oncotarget 2015)、大腸発癌・腫瘍増殖の新規分子制御(吉田ら:PLOS ONE 2016)(吉田ら:AJPGI 2016)、と多角的に基礎研究を行い、その成果を報告しています。

 

若い先生方へのmessage

 胆膵疾患診療というと何だかややかしそう、難しそうというイメージがあるかと思います。胆膵疾患の診断・治療には通常内視鏡とは異なるERCP、EUSを主に用います。治療においてはEUSを用いた治療が著しく発展しています。これらの手技は,経皮的治療、外科治療と比較して低侵襲である一方で,技術的に難度が高く,重篤な偶発症のリスクも伴います。 また、これらの手技は術者だけでなく、助手の技量も非常に重要です。より安全、確実な技術の習得には、エキスパートの手技、処置具の選択・使用方法、トラブルシューティングを実際に見て勉強をする必要があります。そのようなために我々のグループではなるべく多くの人間で集まり処置を行うことにより、なるべく多くの症例、経験を積むことができるように治療を行っています。多くの症例、手技を見て、実際に行うことにより、ほとんどの先生が胆膵疾患診療は必ずできるようになります。我々も多くの若い先生方に胆膵診療のやりがいを感じて頂ければと思っています。やる気さえあれば大丈夫です。是非、胆膵グループで一緒に頑張りましょう。