内分泌糖尿病グループ

臨床

 1型糖尿病、2型糖尿病に対し、血糖のコントロールから合併症の治療までエビデンスに基づいた糖尿病治療を行っています。持続血糖測定装置(CGM)を用いた細かい血糖管理は入院・外来ともに行っています。1型糖尿病に関してはインスリンポンプを用いた治療を積極的に導入しています。
糖尿病教育としてシリーズ教育プログラムが組まれた糖尿病グループ指導があります。このグループ指導は、普段はご自身の通院する医療機関で治療を受けながら、この指導のみを当院で受けることができます。また、年3回オープン参加形式の糖尿病教室を行っており、医師とコメディカルが協力しながら患者指導を行っています。
 合併症や関連疾患の治療のために他科との密接な連携を取っています。例えば細小血管合併症のために眼科、腎臓内科、神経内科と、虚血性心疾患、脳血管障害、末梢動脈閉塞症の治療のために循環器内科、神経内科と、フットケアー、皮膚感染の治療のために皮膚科、歯周病治療のために歯科口腔外科との連携などです。妊娠糖尿病管理も症例数は豊富で、インスリン注入ポンプを導入した1型糖尿病患者分娩症例もあります。
 さらに糖尿病療養指導士(CDE)の研鑽と資格取得や維持のための参加点数が認められた「糖尿病イブニングセミナー」という研究会を年2回、開催しています。参加者は関連施設に勤務する糖尿病専門医、療養指導士やその資格取得を目指している人です。毎回、全国的に著名な先生方を講師にお招きしており、最新の糖尿病に関する情報を取得することができます。

甲状腺

 バセドウ病・橋本病に対してエビデンスに基づいた薬物療法を行っています。甲状腺腫瘍に対してはエコー、CT、MRI、RIなどの画像検査や甲状腺エコーガイド下穿刺細胞診を実施し、悪性腫瘍の早期発見につとめています。
また、手術が必要な甲状腺腫瘍に関しては耳鼻いんこう科と緊密な関連によりスムーズに外科的治療を行える体制となっています。当科から紹介し手術していただいた症例のフィードバックのために、隔月で耳鼻科と合同で甲状腺癌の症例検討会を行っています。副甲状腺機能亢進症を血液、尿、頚部エコー、CT、RI検査などにより早期診断しており、内分泌外科に速やかに腺腫摘出手術を依頼しております。なお、 21q11.2欠失などの先天性副甲状腺機能低下症や特発性・偽牲副甲状腺機能低下症も多数外来で診療しカルシウム代謝を正常化しています。
 骨粗鬆症に対しても、ガイドラインに基づき骨密度や骨代謝マーカーなどを参考にして、生活指導・薬物療法を行い患者さんの骨を守るように努力しています。

下垂体

 各種の内分泌学的負荷試験により下垂体前葉・後葉機能を的確に判定し、MRI所見などと総合してさまざまな間脳・下垂体疾患を診断し、脳神経外科と協力して総合的診療をしています。2006年5月から成人に対する成長ホルモン補充療法が保険で認められるようになって以来、当科では多くの成人成長ホルモン分泌不全症治療患者さんに積極的に成長ホルモン補充療法を導入しています。

副腎

 副腎ホルモンの欠損症、過剰症に対して内分泌学的負荷試験、シンチグラフィーを行い診断、治療を行っています。健診や他の診療科でのCTやMRI撮影時に偶然見つかる副腎偶発腫瘍の精査依頼を多く受けます。当科では副腎腫瘍パス入院を用意しており、どのホルモン異常かを効率良く調べることができます。アルドステロン産生腫瘍に関しては放射線科と共同で副腎静脈サンプリングを積極的に行っています。機能性腫瘍の確定診断がついた場合は泌尿器科に依頼して腹腔鏡下腫瘍摘出手術を行っています。

 

研究

基礎的研究

 当科ではこれまで糖尿病の合併症を中心に研究を進めており、主なテーマは動脈硬化、糖尿病と認知症、糖尿病性消化管運動障害、糖尿病と癌の関係である。

1)糖尿病における動脈硬化進展の研究

 糖尿病の高血糖状態(Ohomi et al.  J. Diabetes. Complications., 16:201-8, 2002)あるいは高インスリン状態(Okouchi et al.  Diabetologia, 45:1449-56, 2002)でヒト臍帯静脈の血管内皮細胞に好中球の接着増加する現象をin vivoで証明し、高血糖のみならず高インスリン血症も強力な動脈硬化促進因子となることを提唱した。さらにはアルドース還元酵素阻害剤(Okayama et al, J. Diabetes. Complications., 16:321-326, 2002)、スタチン(Ohmi et al. Microvasc. Res., 65:118-124, 2003; Okouchi et al, J. Diabetes. Complications., 17:380-386, 2003.)、SU剤 (Okouchi et al, Diabetes Metab Res Rev.20:232-8, 2004)、高血小板薬(Ohmi et al Microvasc Res. 68: 119-125, 2004)、H2受容体拮抗剤(Takeuchi et al.  J Diabetes Complications, 21, 50-55, 2007)など糖尿病治療に関連する薬剤が高血糖状態あるいは高インスリン状態における血管内皮細胞への好中球接着現象を抑制することを証明した。

2)糖尿病と認知症

 糖尿病はアルツハイマー型認知症の発症要因と考えられており、その要因の一部に糖尿病初期の高インスリン状態がアミロイドβの蓄積を促進し、進行した糖尿病でのインスリン欠乏が脳神経細胞のアポトーシスを促進することが挙げられる。当科の大河内、木村らは糖尿病における認知症の発症に着目し、その治療法を開発するための基礎的研究を行ってきた。大河内、木村らは腸管上皮細胞から分泌されインスリンの分泌促進やグルカゴン抑制効果を持つGLP-1に着目し、GLP-1が神経細胞株であるPC12においてアポトーシスを抑制することを示した。(Kimura et al. Neuroscience 162: 1212-1219, 2009)さらには、その機序としてGLP-1の代表的なシグナル伝達経路であるアデニレートサイクレース/cAMP/PKAを介した機序だけでなく、上皮増殖因子(EGF)を介した経路も関与していることを示した。(Kimura et al, Neroendocrinology 97:300-308, 2013)

3)糖尿病性消化管運動障害

 糖尿病の合併症の一つに消化管運動障害があり、糖尿病患者では胃排泄能が低下し食物が胃内に残留して嘔気、食思不振が出現したり、大腸の蠕動が障害され、便秘に悩まされることが多い。今枝、加藤らはまずは生理的な状態での消化管運動調節因子としてエンドセリン-1 (ET-1)の作用機序を下部食道括約筋(Imaeda et al, Br. J. Pharmacol., 135: 197-205, 2002; J. Smooth Muscle Res., 39:119-133, 2003)や胃(Imaeda et al, J. Smooth Muscle Res, 40: 197-208, 2004)で解明した。さらに糖尿病モデルラットにおいてET-1シグナルが増強していることを示した。(Kato et al, J. Smooth Muscle Res, 43: 191-199, 2007.)さらに、研究対象をGLP-1や内分泌ホルモンに広げ、大学院生の大口らが継続している。

4)糖尿病と癌

 糖尿病患者には特定の臓器の癌が発症しやすいことは経験的に知られていたが、2012年に日本糖尿病学会は公式に膵癌、肝臓癌、大腸癌、子宮癌、乳癌は糖尿病患者において発症率が高いことを声明し、その要因としてはインスリンやアディポサイトカインによる癌細胞の増殖や高血糖に伴う酸化ストレスが発癌に寄与することが挙げられているが、まだ不明な点が多い。当科では糖尿病と消化器癌の関係に注目し、大腸癌細胞株を用いて、糖尿病における癌増殖要因を大学院生の八木を中心に進めている。

臨床研究

 当科と関連病院を中心に臨床研究でこれまでにDPP-4阻害薬の治療効果予測因子の解明を行っており、高グルカゴン血症が良好な治療効果を示すことを示した。(Okayama et al, Diabetology International 4:179-185, 2013)
 現在はSGLT2阻害薬における食欲の変化に関して胃粘膜から分泌されるグレリンに注目し、多施設共同での臨床試験が進行中である。

共同研究

 当科では基礎研究を進めるにあたって以下の教室と共同研究を行ってきました。
  細胞生理学教室(大口、加藤、今枝)
  分子研(岡山、木村)
 また研究内容が代謝と消化器領域にまたがる内容が多いことから常時消化器グループの医師と共同で研究を進めています。今後も研究内容に応じて関連性の高い教室と共同研究を進めていきたいと考えています。

留学・海外発表

 当科ではこれまでにルイジアナ州立大学(岡山、大河内)、NIH(大見)、オックスフォード大学(今枝)に海外留学を派遣しています。また海外の学会に関しては2016年にアメリカ糖尿病学会(八木)、アメリカ消化器病学会(大口)に発表しています。
 将来海外留学を目指している若き先生達を積極的にサポートしていきます。